第36回 東海若手セラミスト懇話会
2008 年 夏期セミナー開催報告

東海若手セラミスト懇話会
日本セラミックス協会東海支部


去る7月10日(木),11日(金)の2日間,日本セラミックス協会東海支部東海若手セラミスト懇話会の2008年夏期セミナーが岐阜県岐阜市のホテルパークで開催されました.今回は過去最多の136名(学生90名,一般46名)の参加者を集め,招待講演3件,テーブルディスカッション60件(学生54件,一般6件),学位論文紹介1件,若手セラミスト基金による国際セッション1件,海外報告1件の発表が行われました.以下,進行順に内容を報告いたします.


1日目;13:25,定刻通り名古屋工業大学の井田運営委員代表の挨拶により会が始まり、より良い懇話会にしていただくために活発な議論と積極的な情報交換を行っていただくよう挨拶がありました。

引き続き招待講演1として,トヨタ自動車(株)の酒井 武信先生より「セラミックス「守・破・離」」と題してお話を頂きました.(→写真1)“自動車会社における研究開発への取り組み姿勢”をキーワードに,これまでの経験を基に紹介していただきました.研究分野について,主にピエゾインジェクター用圧電セラミックス(PZT)の研究開発に専念され、研究開発を通じて,実験事実→メカニズム推定→実験での検証および評価法の開発→総合的考察→材料開発指針→実験事実というようにサイクルを廻してどう進めるのかを,わかりやすく面白くご講演いただきました.自動車メーカーの先生だけに学生さんにとって興味深い話ではないでしょうか.

テーブルディスカッションのアピーリングタイム第1部が,招待講演1の後に行われました.夜に行われるテーブルディスカッションのアピールを一人30秒の持ち時間で1枚の資料を使って行ってもらいました.限られた時間の中で工夫を凝らした一生懸命のアピールが多く見られました.

続く招待講演2では,宇宙航空研究開発機構(JAXA)の早川 雅彦先生から「日本の太陽系探査」というタイトルでお話を頂きました.冒頭,「なぜ太陽系を探索するのか?」というタイトルで講演が始まり,興味を惹かれた導入となりました.一つの回答例として,人類のような文明が地球以外にもあるのではなかろうか,われわれ人類は孤独なのか,人類の生まれてきた意味・使命は何なのか,という哲学的な発想も紹介いただきました.また,JAXAは,文科省宇宙科学研究所,科技庁航空宇宙技術研究所および宇宙開発事業団の三機関が統合して組織をスリム化して発足されたことや,我が国のロケット開発は大きく分けて2本立てで進められてきた経緯を紹介いただき,この分野に興味を抱いた若手の研究者や学生さんも多かったのではないかと思われます.

テーブルディスカッションのアピールタイム第2部が招待講演2の後に第1部と同様に行われました.

夕食を兼ねた意見交換会は,宴会場で行われました.至る所で会話に花が咲き交流の輪ができていました.非常に盛り上がり中締めの挨拶があった後も,多くの人が宴会場に残りテーブルディスカッションが始まる直前まで意見交換が続いていました.

テーブルディスカッションは,60 件の発表を4グループに分け,コアタイムを設定する形で進められました(→写真2).このテーブルディスカッションとは,本会では恒例となっているポスターセッションの変形版で,発表ポスターをテーブル上に並べて発表する形式です.テーブルディスカッションの発表件数も,おそらく過去最多と思われる60件と多く,アルコール飲料を片手に持ちながらの議論であったことも手伝って,会場はものすごい熱気でした.熱心な討論が 22 時 30 分まで続けられました.なお,招待講演の講師の先生と一般参加者の投票により選ばれた優秀な発表に対して,運営委員代表賞(1件)、優秀発表賞(4件)が贈られました.受賞者氏名,所属と発表題目は,本報告の最後に記したとおりです.熱心な議論や交流は,場所を移して催された二次会の会場で,3時過ぎまで続けられました.


2日目は,大阪府立大学の林 晃敏先生による「全固体電池への応用にむけたイオン伝導ガラスの開発」と題した招待講演3で始まりました.ご講演では,リチウムイオン伝導ガラスの開発経緯や合成手法について,紹介されました.ガラスの合成方法として一般的な溶融急冷法でなく,メカノケミカル法を利用した場合など新規性に富む話題でした.硫化物アニオンなどの分極率の大きいイオンを多用し,キャリアイオンの濃度を極端に高くすることによって,ほぼ例外なく高いイオン伝導を示すことなど,異なる研究を進めている若手の研究者や学生にとって参考になったことと思います,この種の高イオン伝導化は、他にも様々なアプローチがあることも同時に紹介され,聴衆者に対してイオン伝導ガラスへの興味を沸きたてさせるようなPRも同時になされ,先生の研究に対する情熱をうかがえました.また,2日目朝一番の講演にも関わらず,はやりの“リチウムイオン電池”の話題だけに質問が多く、時間延長するほど活発なセッションとなりました。

今回も招待講演に対する学生の質問の中から各講演につき1件ずつ,ベスト質問賞が贈られました.これは,学生が積極的に講演の質問に立つことを促すために考えられた賞で,ご講演いただいた先生に選考していただいております.今年で4年目となりますが,非常に多くの学生が積極的に質問に立つようになり,明らかに議論の活発化につながっていると思われます.今回の受賞者の氏名と所属は,本報告の最後に記したとおりです.

休憩をはさみ,学位論文紹介では三重県工業研究所の井上 幸司先生が「高機能性Al-Si-C系セラミックスの作製と特性に関する研究」というタイトルで新規の複合炭化物材料に関する材料創成について学位論文の研究成果を説明してくださいました.学位取得に向けて刺激を受けた学生さんも多かったのではないでしょうか.

休憩をはさみ,今年から初めて試みとなる若手セラミスト基金国際セッションとして「Micro to Nano :Changing face of ceramic industry」と題して(株)ノリタケカンパニーリミテドのBalagopal Nair先生にご講演をいただきました。日本企業の研究者の立場で,オーストリラリアの大学でシミュレーションに関する研究活動を進めた話を楽しく紹介していただきました。セラミックス研究の仕事を交えて若手研究者や学生に研究に対するセンス!?についてコメント・アドバイスもしていただきました。ご自身のセラミックス研究開発に対する思い入れなども情熱的で、国際色豊かで活力あるセッションとなりました。

次に海外報告として,日本ガイシ株式会社の來田 雅裕先生より,スイス連邦工科大学に滞在された際の生活についてご報告していただきました.国際会議に出席する重要性について、特に説明され学生にとって貴重な話になったことと思います。また、英語でのコミュニケーションは当然で、母国語も積極的に話す意気込みもほしいとのことでした。全体的にリラックスした雰囲気で報告していただきました.また,休暇を利用しての旅行や現地で知り合った友人とのパーティーの様子なども写真を交えて紹介していただき,若い研究者や学生さんの「海外留学したい」という気持ちを掻き立てたのではないかと思います。

最後に昼食をとりながら,テーブルディスカッション優秀発表賞とベスト質問賞の発表と表彰を行いました.運営委員代表特別賞を受賞した静岡大学のAndrie Yusahrizal君には,井田代表が自ら準備したアルミニウム製升(→写真3, )が贈られ,その日本文化を交えて“升”に託した代表の思いが熱く語られ,国際色豊な懇話会となりました.最後に秋期講演会での再会を約束し,閉会しました.

例年本セミナーでは,クール・ビズスタイルでの参加を呼びかけており,今回もそのリラックスした雰囲気の中で活発な討論が行われました.また,合宿形式ということもあり,夜遅くまで研究のことだけでなく様々なことを語り合い,東海地区の若手が親睦を深める良い機会となりました.この場をお借りして,次回にもより多くの方々のご参加をいただけますよう,ご案内する次第です.


優秀発表賞受賞者(敬称略)

最優秀発表賞
松本 慎司 名古屋工業大学 「La1-xSrxMnO3 セラミックスの電気特性」
東海若手セラミスト懇話会運営委員代表特別賞
Andrie Yusahrizal 静岡大学 「ゾルゲル法による多孔質ムライトナノ粒子の調製と低誘電率薄膜への応用」
優秀発表賞
松本 千誉 名古屋大学 「水熱鉱化機構に対するホウ素の溶存化学形態の影響」
井波 仁志 名古屋大学 「水溶液プロセスを用いた酵素反応によるTiO2ファイバーの合成」
丸山 雄大 名古屋大学 「SiドープCNT配向膜の作製とTEMによる構造・組成評価」
大矢 哲久 名古屋工業大学 「粉末X線回折ピーク形状分析による微小歪みの評価」

ベスト質問賞受賞者(敬称略)

小林 永康 名古屋大学
中村 雅人 名古屋大学
阿知波 敬 愛知工業大学

written by 井上 幸司(三重工業研究所)


写真

invited lecture
写真1 招待講演
table discussion
写真2 テーブルディスカッション
present
写真3 運営委員代表特別賞表彰
present
写真4 運営委員代表特別賞副賞

2008年9月11日更新