第38回 東海若手セラミスト懇話会
2009 年 夏期セミナー開催報告

東海若手セラミスト懇話会
日本セラミックス協会東海支部


去る7月9日(木),10日(金)の2日間,日本セラミックス協会東海支部東海若手セラミスト懇話会の2009年夏期セミナーが三重県鳥羽市の鳥羽シーサイドホテルで開催されました.今回は122名(講師:5名,一般:32名,学生:85名)の参加者を集め,招待講演2件,若手セラミスト基金による国際セッション1件,テーブルディスカッション53件(企業紹介1件,学生45件,一般7件),学位論文紹介1件,海外報告1件の発表が行われました.以下,進行順に内容を報告いたします.


1日目;13:30,定刻通り(株)INAXの前浪運営委員代表の挨拶により会が始まり,より良い懇話会にしていただくために活発な議論と積極的な情報交換を行っていただくよう挨拶がありました.

引き続き招待講演1として,東京工業大学の武田博明先生より「高温ヒータ用PTCサーミスタの非鉛化」と題してお話していただきました.(→写真1)PTCセラミックスが温度上昇に伴い,ある温度で急激に電気抵抗が上昇する(Positive Temperature Coefficient of Resistivity:PTCR)特性を示し,この特性を利用して材料自身がセンサーかつコントローラーである外部に制御回路を必要としないインテリジェントなヒータ素子であること,研究開発当初には,PTCサーミスタの非鉛化は不可能とされていたこと,チタン酸バリウムにドープされる非鉛シフター材料を詳細に検討する上で非鉛化が達成されたことなど,研究の過程も通してわかりやすくご講演いただきました.セラミックス試料の作製における注意点等もお話いただき,セラミックスを研究対象にしている学生さんにとって身近に感じられる講演内容であったかと思います.

テーブルディスカッションのアピーリングタイム第1部が,招待講演1の後に行われました.夜に行われるテーブルディスカッションのアピールを一人30秒の持ち時間で1枚の資料を使って行ってもらいました.限られた時間の中で工夫を凝らした一生懸命のアピールが多く見られました.

続く招待講演2では,広島大学の森吉 千佳子先生から「高エネルギー放射光回折によるペロブスカイト型酸化物の構造物性」というタイトルでご講演いただきました.冒頭,広島大学の紹介からはじまり,なぜX線回折を用いた構造物性の研究をはじめられたのかその動機などもお話いただき,多くの学生が興味を引く導入となりました.後半は,高エネルギー放射光回折から得られた最新の成果をお話いただき,強誘電体ヒステリシスの劣化現象などが,高エネルギー放射光回折から得られた結晶構造および電子密度分布の観点から説明できることをお話いただきました.電子密度分布が魅せる結晶のミクロの世界とそれが物性機構とどのように関わっているのか学術的にもおもしろくお話いただきましたので,多くの若手の研究者や学生さんが興味を持たれたことと思います.

テーブルディスカッションのアピールタイム第2部が招待講演2の後に第1部と同様に行われました.

夕食を兼ねた意見交換会は,宴会場で行われました.至る所で会話に花が咲き交流の輪ができていました.楽しいひとときとなりました.

テーブルディスカッションは,52件の発表を4グループに分け,コアタイムを設定する形で進められました(→写真2).このテーブルディスカッションとは,本会では恒例となっているポスターセッションの変形版で,発表ポスターをテーブル上に並べて発表する形式です.アルコール飲料を片手に持ちながらの議論であったことも手伝って,至るところで質問が飛び交っていました.熱気冷めやらぬ討論が22時30分過ぎまで続けられました.なお,招待講演の講師の先生と一般参加者の投票により選ばれた優秀な発表に対して,最優秀発表賞(1件),優秀発表賞(4件)が贈られました.受賞者氏名,所属と発表題目は,本報告の最後に記したとおりです.その後,場所を移して催された二次会の会場で,熱心な議論や交流が1時過ぎまで続けられました.


2日目は,若手セラミスト基金国際セッションとして,Kangwon National Universityの李 載寧先生による「Application of Grinding Process for Recovery of Precious Metals」と題したご講演を行っていただきました.ご講演では,金,銀,白金などの貴金属を再利用するために,これら貴金属を含んだ部品からいかに純度の高い状態で,抽出するかそのプロセスについて詳細をご説明いただきました.「この研究は,お金になるか?」と質問した学生に対して,「君たちは,研究者の卵なのだから,今はそのようなことを気にせず,興味を持った研究に邁進してほしい.」と回答されたのが,とても印象的でした.

今回も招待講演,国際セッションの講演に対する学生の質問の中から各講演につき1件ずつ,ベスト質問賞が贈られました.これは,学生が積極的に講演の質問に立つことを促すために考えられた賞で,ご講演いただいた先生に選考していただいております.今年で5年目となりますが,多くの学生が積極的に質問するようになり,議論の活発化につながっています.今回の受賞者の氏名と所属を,本報告の最後に記しました.

休憩をはさみ,学位論文紹介では名古屋大学の徳永 智春先生が「高圧捻回ひずみ法によるAl/C 複合材料の創製に関する基礎研究」というタイトルで,高圧捻回ひずみ法といった通常とは異なる方法でAl/C 複合材料の創製に至った成果について説明してくださいました.将来の学位取得に向けて刺激を受けた学生さんも多かったのではないでしょうか.

休憩をはさみ,海外報告として,(財)ファインセラミックスセンターの桑原 彰秀先生より,ノルウェーのオスロ大学に約2年間滞在された際の研究活動,生活についてご報告いただきました.海外に長期滞在し,研究を行う上で文部科学省の海外特別研究員の助成制度が大変役に立ったこと,また,なぜ北欧の大学を派遣先に選ばれたのかお話いただきました.冬期に北欧で生活する上での苦労話についてもお話いただきました.学生にとってはなかなか聞けない貴重なお話になったことと思います.

最後に昼食をとりながら,テーブルディスカッション優秀発表賞とベスト質問賞の発表と表彰を行いました.最優秀発表賞を受賞した名古屋工業大学の大橋 敬之君には,前浪代表がINAXの製品であるタイル(→写真3, )が贈られました.前浪代表によれば,そのタイルと思えない風変わりな形状から,常識にとらわれず,時には異なる視点から研究に取り組んでほしいといった願いを籠めてお贈りしたとのことでした.最後に秋期講演会での再会を約束し,閉会しました.

例年本セミナーでは,カジュアルなスタイルでの参加を呼びかけており,今回もそのリラックスした雰囲気の中で活発な討論が行われました.また,合宿形式ということもあり,夜遅くまで研究のことだけでなく様々なことを語り合い,東海地区の若手が親睦を深める良い機会となりました.この場をお借りして,次回にもより多くの方々のご参加をいただけますよう,ご案内する次第です.


優秀発表賞受賞者(敬称略)

最優秀発表賞
大橋 敬之 名古屋工業大学 「(Li,Na)NbO3 系非鉛圧電セラミックスの誘電特性」
優秀発表賞
中埜 高志 名古屋工業大学 「新規な層状炭化物ホモロガス相(ZrC)l(Al4C3)mの結晶構造」
岩田 晋弥 名古屋工業大学 「ノンドープCaO・Al2O3
塩坂 W 輝期 豊田工業大学 「テルライトガラスの誘導ラマン散乱特性とその応用」
那須 寛之 豊田工業大学 「太陽光励起レーザ媒体の研究」

ベスト質問賞受賞者(敬称略)

下川 洋平 名古屋工業大学
稲田 悠平 名古屋工業大学
松本 千誉 名古屋大学

written by 籠宮 功(名古屋工業大学)


写真

invited lecture
写真1 招待講演
table discussion
写真2 テーブルディスカッション
present
写真3 運営委員代表特別賞表彰
present
写真4 運営委員代表特別賞副賞

2009年8月4日更新