[東海若手セラミスト懇話会]
[日本セラミックス協会東海支部]
去る6月28日(木),6月29日(金)の2日間,日本セラミックス協会東海支部東海若手セラミスト懇話会の2012年夏期セミナーが静岡県浜松市のホテルウェルシーズン浜名湖で開催されました.今回は101名(講師:5名,一般:34名,学生:62名)の参加者を集め,招待講演3件,テーブルディスカッション51件(企業紹介1件,一般9件,学生41件),学位論文紹介1件,海外報告1件の発表が行われました.以下,進行順に内容を報告いたします.
1日目: 定刻通り産業技術総合研究所の鈴木一行運営委員代表から,活発な議論と積極的な情報交換を行っていただくよう挨拶があり、会が始まりました.
引き続き招待講演1として,名古屋大学の坂本渉先生より「マルチフェロイック酸化物の材料設計と強磁性強誘電体薄膜作製へのアプローチ」と題してお話をいただきました.強誘電性、強磁性、強弾性など、二つ以上のフェロイックな特性を持つマルチフェロイック機能について説明をして頂きました.中でも、強磁性と強誘電性を同時に発現するBiFeO3材料について、精密な組成制御が容易な化学溶液プロセスによるマルチフェロイック薄膜の作製に関する試みについて紹介して頂きました。先生の分かりやすい話を聞いて,この手法をよく理解し、興味を持たれた学生さんも多かったのではないでしょうか.
その後、テーブルディスカッションのアピーリングタイム第1部が,引き続き行われました.(→写真1)夜に行われるテーブルディスカッションのアピールを一人30秒の持ち時間で1枚のスライドを使って行ってもらいました.限られた時間の中で工夫を凝らした懸命なアピールが多く見られました.
招待講演2では,東京大学の柴田直也先生から「先進STEM法を用いたセラミックス界面研究」というタイトルでお話をいただきました.STEM法という走査型の透過電子顕微鏡について、その仕組みから理論的な解釈、実用例まで通してご紹介頂けたことで、多くの若手研究者や学生さんが興味深く聴講・勉強できました.(→写真2)高性能セラミック材料開発手法の一つにドーパントの添加が挙げられるが、ドーパント添加効果の起源について原子・電子レベルで明らかにすることで、合理的に材料創製を行う理論構築に関して、大変、興味深い講演を行って頂きました.
テーブルディスカッションのアピーリングタイム第2部が,招待講演2の後に第1部と同様に行われました.
夕食を兼ねた意見交換会は,宴会場で行われました.至る所で会話に花が咲き交流の輪ができていました.非常に盛り上がり中締めの挨拶があった後も,多くの人が宴会場に残りテーブルディスカッションが始まる直前まで意見交換・交流が続いていました.
テーブルディスカッションは51件の発表を4グループに分け,コアタイムを設定する形で進められました.このテーブルディスカッションとは,本会では恒例となっているポスターセッションの変形版で,発表資料をテーブル上に並べて発表する形式です.ポスターを持参する人や実際のサンプルを持ち込んで実演する人もいて、創意工夫が見られました.アルコールを飲みながらの議論であったことも手伝って会場はものすごい熱気で,至る所で質問が飛び交っていました.熱心な討論がコアタイムを超えても続けられ、22時30分過ぎに終了しました.なお,参加者全員の投票により選ばれた優秀な発表に対して,最優秀発表賞(1件),優秀発表賞(4件)が贈られました.受賞者氏名,所属と発表題目は,本報告の最後に記した通りです.熱心な議論や交流は場所を移して催された二次会の会場でも朝3時過ぎまで続けられ、それでも議論し足りない人は、その後も会場の外で日が昇るまで議論を続けました.
2日目: 招待講演3として,産業技術総合研究所の鈴木宗泰先生による「ビスマス系非鉛強誘電体の圧電・分極・リーク特性」と題したご講演を行っていただきました.冒頭で,先生が長年取り組んできた強誘電体に対する思いを、ご自身の略歴を交えて紹介していただきました.続いて、先生のご所属である産業技術総合研究所の紹介をしていただきました.前半は対象が主に学生さんであることにご配慮いただき、誘電体材料の基礎を丁寧にご講演頂きました.後半は、エアロゾルデポジション成膜に関する最新の研究成果を交えたより具体的なお話を頂きました.結晶構造から予測される特性と実サンプル間の違いに注目され、プロセスを詳細に検討した結果、予測される特性が得られるようになった経緯についても大変興味深いお話をして頂きました.二日目の朝ということでしたが、学生を含め聴講者の興味を引くご講演をして頂けたため、真剣に話に聞き入る学生の様子が見られ、活発な質疑応答につながりました.(→写真3)
今回も招待講演に対する学生の質問の中から各講演につき1件ずつ,ベスト質問賞が贈られました.これは,学生が積極的に講演に対して質問をすることを促すために考えられた賞で,ご講演いただいた先生に選考していただいております.今年で8年目となりますが,非常に多くの学生が積極的に質問に立つようになり,明らかに議論の活性化につながっていると思われます.今回の受賞者の氏名と所属は,本報告の最後に記した通りです.
学位論文紹介では産業技術総合研究所の北憲一郎先生が「ポリマープレカーサー法による炭化ケイ素系セラミックマイクロチューブおよび多孔質繊維の合成」というタイトルで,ポリマープレカーサーを出発源として用い、水素との反応性を制御することにより、炭化ケイ素系マイクロチューブ作製に取り組まれた研究成果および多孔質状の炭化ケイ素系繊維の合成に関する研究成果について詳細なご紹介を頂きました。将来の学位取得に向けて刺激を受けた学生さんも多かったのではないでしょうか.
次に海外報告として,名古屋工業大学の青柳倫太郎先生より,アメリカのThe Pennsylvania State Universityに滞在された際の研究活動,生活について報告していただきました.アメリカに住んで研究したことにより直接肌で感じることができたアメリカの研究スタイルをはじめ,文化や歴史,気候に至るまで幅広くお話し頂きました.学生さんにとってはなかなか聞けない貴重なお話になったことと思います.
最後に,テーブルディスカッション優秀発表賞とベスト質問賞の発表と表彰を行いました.最優秀発表賞を受賞した名古屋大学の中北行紀君には,鈴木代表が購入された東北地域に関連した贈呈品が贈られ,この贈呈品に託した震災を風化させないという代表の思いが熱く語られました.(→写真4)最後に秋期講演会での再会を約束し,閉会しました.
例年本セミナーでは,カジュアルなスタイルでの参加を呼びかけており,今回もそのリラックスした雰囲気の中で活発な討論が行われました.また,合宿形式ということもあり,夜遅くまで研究のことだけでなく様々なことを語り合い,東海地区の若手が親睦を深める良い機会となりました.この場をお借りして,次回にもより多くの方々のご参加をいただけますよう,ご案内する次第です.
最優秀発表賞 | ||
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中北 行紀 | 名古屋大学 | 「リン酸カルシウムを含む有機−無機複合材料表面における骨類似アパタイト形成反応」 |
優秀発表賞 | ||
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坂井田 哲資 | 名古屋工業大学 | 「CaZrO3系蛍光体のEu3+置換サイトと発光特性」」 |
加藤 知嗣 | 豊橋技術科学大学 | 「多孔質セラミックスのミクロ構造デザインに関する基礎検討」 |
松原 康城 | 豊橋技術科学大学 | 「透明ナノコンポジットの作製」 |
吉川 英世 | 豊橋技術科学大学 | 「ナノ−ミクロ集積複合粒子の作製」 |
牧野 成道 | 名古屋大学 |
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野田 好孝 | 名古屋大学 |
坂井田 哲資 | 名古屋工業大学 |
written by 山口十志明(産業技術総合研究所)
写真1 アピーリングタイム |
写真2 招待講演(柴田先生) |
写真3 招待講演(鈴木先生) |
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写真4 最優秀発表賞表彰 |
2012年8月16日更新