第50回 東海若手セラミスト懇話会
2015 年 夏期セミナー開催報告

東海若手セラミスト懇話会
日本セラミックス協会東海支部


去る6月25日(木),26日(金)の2日間,日本セラミックス協会東海支部東海若手セラミスト懇話会の2015年夏期セミナーが滋賀県大津市のアヤハレークサイドホテルで開催されました.今回は79名(学生46名,一般33名)の参加者を集め,招待講演3件,テーブルディスカッション41件(学生35件,一般5件,企業紹介1件),学位論文紹介1件,海外報告1件の発表が行われました.以下,進行順に内容を報告いたします.


1日目;13:25,定刻通り岐阜県セラミックス研究所の尾畑運営委員代表の挨拶により会が始まり,歴代の委員により受け継がれてきた東海若手セラミスト懇話会の伝統について語られ,活発な議論と積極的な情報交換を行っていただくよう挨拶がありました.

引き続き招待講演1として,鳥取大学の増井先生より「環境に優しい無機顔料」と題してお話を頂きました.(→写真1)鮮やかな色を呈する既存の無機顔料には,強い毒性を示す金属を含んでいるものがあり,これらの顔料が使用された食器や玩具がメーカーにより自主回収されたという問題提起から講演がスタートし,人体に有害な元素及び環境に対する負荷の大きい元素を含まない無機顔料の開発事例を紹介していただきました.結晶構造とバンド理論をベースにした開発手法を分かりやすく紹介された一方で,狙った色を出すことの難しさについてもお話していただきました.成果の裏で闇に葬られたサンプルも数多くあったそうで,ご紹介された研究成果は学生さんの血のにじむような努力ののたまものであるとお話していただきました.増井先生の熱意のこもった分かりやすい講演に対して,非常に多くの学生が手を挙げて質問をしました.身近な顔料についての研究開発は,学生さんにとって興味深いお話だったようです.

テーブルディスカッションのアピーリングタイム第1部が,招待講演1の後に行われました.夕食後に行われるテーブルディスカッションについて一人30秒の持ち時間で1枚の資料を使って説明が行われました.限られた時間の中で効果的なスライドを使った分かりやすい説明が多く見られました.

続く招待講演2では,名古屋大学の北先生から「俯瞰からの価値創出の方法論−熱力学視座からみたセラミックスの価値−」というタイトルでお話を頂きました.(→写真2)環境を基準とした熱力学の新たな指標,エクセルギーの定義に関する説明から講演が始まり,その工学的意味とエクセルギーによる製造プロセスの環境負荷評価事例についての紹介が行われました.アルミ鋳造で用いられるヒーターチューブ用材料にエクセルギー解析を適用した事例において,セラミックス性ヒーターチューブは,その製造時に消費されるエクセルギーが高いものの長期間にわたって使用できるため,寿命が短く繰り返しの交換を要する鉄製のチューブを適用した場合と比べて,アルミ鋳造プロセス全体の環境負荷を低減できるという興味深い結果を紹介していただきました。講演では,環境負荷という視点からセラミックス材料の価値を評価する手法を紹介していただき,この分野に興味を抱いた研究者や学生さんが多かったのではないかと思われます.

テーブルディスカッションのアピールタイム第2部が招待講演2の後に第1部と同様に行われました.

夕食を兼ねた意見交換会が,宴会場で行われました.(→写真3)大学、研究室の垣根を越えた交流の輪が随所に見られ、活発な意見交換が行われました.中締めの挨拶の後も,学生や教員の会話の輪が途切れることなく続き、テーブルディスカッションが始まる直前まで意見交換が続いていました.

テーブルディスカッションは,41件の発表を4グループに分け,コアタイムを設定する形で進められました.(→写真4)このテーブルディスカッションとは,本会では恒例となっているポスターセッションの変形版で,発表ポスターをテーブル上に並べて発表する形式です.アルコール飲料を片手に持ちながらの議論であったことも手伝って,会場は熱気に包まれていました.今回も,セラミックスをキーワードに東海地方の大学,研究所および企業から多種多様な研究発表がなされ,それぞれのポスターの前で熱心な討論が22時30分まで続けられました.なお,招待講演の講師の先生と一般参加者の投票により選ばれた優秀な発表に対して,最優秀発表賞(1件)、優秀発表賞(4件)が贈られました.受賞者氏名,所属と発表題目は,本報告の最後に記したとおりです.熱心な議論や交流は,場所を移して催された二次会の会場で,深夜遅くまで続けられました.


2日目は,広島大学の片桐先生による「無機ナノ粒子を用いた機能性材料の創成−バイオメディカル応用を中心として−」と題した招待講演3で始まりました.(→写真5)ご講演では,磁性ナノ粒子とナノゲルを組み合わせたハイブリッド粒子の合成および核磁気共鳴画像法やガンの温熱療法などの医療分野への応用,赤外線カットコーティングへのITOナノ粒子の応用など,多岐にわたる研究成果を紹介していただきました.液相プロセスによって組成,サイズおよび粒子表面状態が制御された無機ナノ粒子を,有機材料などの異種材料とハイブリッド化した新材料の可能性について,多くの学生が興味抱いたのではないでしょうか.2日目朝一番の講演にも関わらずたくさんの質問があり,時間延長するほど活発なセッションとなりました。

今回も招待講演に対する学生の質問の中から各講演につき1件ずつ,ベスト質問賞が贈られました.これは,学生が積極的に講演の質問に立つことを促すために考えられた賞で,ご講演いただいた先生に選考していただいております.今年で11年目となりますが,非常に多くの学生が積極的に質問に立つようになり,明らかに議論の活発化につながっていると思われます.今回の受賞者の氏名と所属は,本報告の最後に記したとおりです.

休憩をはさみ,学位論文紹介ではあいち産業科学技術総合センターの梅田先生が「燃料電池用無機-有機ハイブリッド型電解質膜の合成と評価」というタイトルで無機-有機ハイブリッド型構造を持つ新規なプロトン伝導性電解質膜の構造評価および燃料電池特性の評価に関する学位論文の紹介をしていただきました.学位取得に向けて刺激を受けた学生さんも多かったのではないでしょうか.

次に海外報告として,岐阜大学の吉田先生より,英国,オックスフォード大学の留学生活についてご報告していただきました.英国への渡航準備の苦労話から始まり,オックスフォード大学の教育システムやキャンパスの様子など写真を交えて紹介していただきました.また,休暇を利用してのスポーツ観戦や旅行について,ユーモアを交えて紹介していただき,若い研究者や学生さんの「海外留学したい」という気持ちを掻き立てたのではないかと思います.

最後にテーブルディスカッション優秀発表賞とベスト質問賞の発表と表彰を行いました.最優秀発表受賞者の名古屋大学の永岡沙希子さんには,副賞として尾畑代表から滋賀県の名産である信楽焼(→写真6)が贈られました.最後に秋季講演会での再会を約束し,閉会しました.

今回のセミナーは,滋賀県で初めての開催となり,東海地方の大学に限らず滋賀県にアクセスが容易な関西地方の大学からも学生さんが参加してくれました.また、例年本セミナーでは,クール・ビズスタイルでの参加を呼びかけており,今回もそのリラックスした雰囲気の中で活発な討論が行われました.合宿形式ということもあり,時間を気にすることなく夜遅くまで語り合うことができ,東海・関西地区の若手が親睦を深める良い機会となりました.この場をお借りして,次回にもより多くの方々のご参加をいただけますよう,ご案内する次第です.


優秀発表賞受賞者(敬称略)

最優秀発表賞
永岡 沙希子 名古屋大学 「セラミックスシェル構造蓄熱体におけるシェル内空隙の熱挙動制御」
優秀発表賞
小泉 充弘 名古屋大学 「穿孔を有するセラミックスシェルボールの作製とその蓄熱層への適合性評価」
尾野 翔器 名古屋工業大学 「Ni基超合金のラフト形性に関するフェーズフィールド・シミュレーション」
三岡 雅尚 愛知工業大学 「酸化還元反応を示す有機金属錯体と多孔質炭素を利用したエネルギー貯蔵材料の開発」
坪井 泉名 名古屋工業大学 「トンネルスピンゼーベック効果を用いたCr2O3/LiNbO3/Cr2O3積層膜における磁気秩序制御」

ベスト質問賞受賞者(敬称略)

永井 隆之 名古屋大学
加藤 邦彦 名古屋工業大学
彦坂 諒一 三重大学

written by 吉田 道之(岐阜大学)


写真


写真1 招待講演1

写真2 招待講演2

写真3 夕食の様子

写真4 テーブルディスカッション

写真5 招待講演3

写真6 最優秀発表賞表彰

2015年7月1日更新