第56回 東海若手セラミスト懇話会
2018 年 夏期セミナー開催報告

東海若手セラミスト懇話会
日本セラミックス協会東海支部


去る6月28日(木),29日(金)の2日間,日本セラミックス協会東海支部東海若手セラミスト懇話会の2018年夏期セミナーが岐阜県下呂市の山形屋で開催されました.今回は72名(講師3名,学生39名,一般30名)の参加者を集め,招待講演3件,テーブルディスカッション40件(学生32件,一般5件,企業紹介3件),学位論文紹介1件,海外報告1件の発表が行われました.以下,進行順に内容を報告いたします.


1日目;13:25,天気に悩まされましたが定刻通り岐阜大学の吉田運営委員代表の挨拶により会が始まり,歴代の委員により受け継がれてきた東海若手セラミスト懇話会の伝統について語られ,活発な議論と積極的な情報交換を行っていただくよう挨拶がありました.

招待講演1として,大阪府立大学の徳留靖明先生より「結晶性ナノビルディングブロック〜水系反応場での材料合成と機能応用〜」と題してご講演頂きました.(→写真1)金属水酸化物ナノ粒子合成とその応用についてお話し頂きました.2種以上のカチオンを含有する層状複水酸化物(LDH)を独自の手法でLDHを剥離・高濃度に分散させる手法をメカニズムとともに紹介して頂き,得られた分散溶液を利用してメソ多孔性を有する薄膜を作製するなどLDH分散溶液はビルディングブロックとして活用ができ,その応用例がいかに多彩かを紹介して頂きました.ナノ・マクロ領域の構造制御の奥深さからか,多くの学生さんから質問が殺到しておりました.

続く学位論文紹介では産業技術総合研究所の山口祐貴氏が「ゾル−ゲル法により作製したPt/WO3薄膜のガスクロミック応答と水素センサへの応用に関する研究」というタイトルで,Pt/WO3におけるガスクロミック平衡反応を分圧・温度・ガス種などの条件を変えて調査することで水素ガス検知性能の環境依存性を解明するなど,研究や開発で役立つ内容を含む学位論文を紹介して頂きました.(→写真2

テーブルディスカッションのアピーリングタイムが,招待講演1の後と学位論文紹介の後に行われました.夕食後に行われるテーブルディスカッションについて1人1分の持ち時間で1枚の資料を使って説明が行われました.限られた時間の中でも効果的なスライドを使った分かりやすい説明が多く見られました.

夕食を兼ねた意見交換会が,宴会場で行われました.大学,研究室,企業の垣根を越えた交流が随所に見られ,活発な意見交換が行われました,中締めの挨拶の後も,学生や教員の会話が途切れることなく続き,テーブルディスカッションが始まる直前まで意見交換が続いていました.

テーブルディスカッションは,40件の発表を4グループに分け,コアタイムを設定する形で進められました..(→写真3)このテーブルディスカッションとは,本会では恒例となっているポスターセッションの変形版で,発表ポスターをテーブル上に並べて発表する形式です.今年は3つの企業が参加され,セラミックス関係に従事したい学生さんが興味深く質問されておりました.また,セラミックスをキーワードに東海地方の大学,研究所および企業から多種多様な研究発表がなされ,それぞれのポスターの前で熱心な討論が遅くまで続けられました.なお,招待講演の講師の先生と参加者の投票により選ばれた優秀な発表に対して,最優秀発表賞(1件),優秀発表賞(4件)が贈られました.受賞者氏名,所属と発表題目は,本報告の最後に記したとおりです.熱心な議論や交流は,場所を移して催された二次会の会場で,深夜遅くまで続けられました.


2日目は,山梨大学の上野慎太郎先生による「溶液プロセスを用いた新たな複合誘電セラミックスの開発〜ファインコンポジットの創成を目指して〜」と題した招待講演2で始まりました.(→写真4)ご講演では, Ti/BaTiO3複合セラミックスを例に,複合材料における最適な構造を提案し,水熱処理条件による膜厚制御,微細かつ均一な金属粒子の使用により理想構造に近づけ誘電特性を向上したとお話し頂きました.加えて,理想構造を実現するために新たな材料種での複合系についてもお話し頂き,機能を最大限に引き出せる材料設計には多くの学生が興味を抱いたと思われます.昨日は遅くまで活発な議論をされていた学生さんですが,質疑応答でも引き続き深い議論が交わされ,朝から有意義なセッションとなりました.

続く招待講演3では,佐賀大学の赤津隆先生から「ナノインデンテーション法で評価する力学特性」と題してご講演頂きました.(→写真5)圧子を試料に押込み,引き抜く際に得られる荷重と押込み深さから得られる関係から局所的な力学特性を評価するナノインデンテーション法についてお話して頂きました.既往の問題点をシミュレーションの結果を元に解決し,より精度の高い推定が可能となる方法の紹介や,圧子の弾性変形や先端の鋭さに対する影響の補正方法,依然として存在する問題などについてご講演頂きました.多くの学生さんに興味を持っていただけたと見え,活気ある質疑応答がされておりました.

最後に海外報告として,産業技術総合研究所の浦田千尋氏より,カナダ・トロント(トロント大学)に海外赴任された際の生活についてご報告していただきました.海外での研究や生活など,日本では味わえない興味深い内容をお話しいただき,海外留学に挑戦したい学生さんの意欲をより奮い立たせたのではないのでしょうか.

最後にテーブルディスカッション優秀発表賞とベストィスカッション賞の発表と表彰を行いました.最優秀発表受賞者の豊橋技術科学大学・桑名崇矢さんには,副賞として岐阜大学・吉田先生から若手セラミスト懇話会オリジナルTシャツが贈られました(→写真6

例年本セミナーでは,クール・ビズスタイルでの参加を呼びかけており,今回もそのリラックスした雰囲気の中で活発な討論が行われました,また,合宿形式ということもあり,学生,教員を問わず多くの方たちが親睦を深める良い機会になったと思われます.この場をお借りして,次回にもより多くの方々のご参加をいただけますよう,ご案内する次第です.


優秀発表賞受賞者(敬称略)

最優秀発表賞
桑名 崇矢 豊橋技術科学大学 「セラミックス直接造形のための原料粉末開発」
優秀発表賞
服部 優哉 山梨大学 「ペロブスカイト型絶縁体/導電体酸化物コア−シェルナノ粒子の合成と大容量複合キャパシタへの応用」
東 総介 岐阜大学 「紫外線硬化樹脂を用いた立体造形用炭化ケイ素スラリーの調整」
加藤 邦彦 名古屋工業大学 「マイクロ波磁場反応場を利用した非量論型金属酸化物の創製とその応用」
Irna Puteri Shahbudin 豊橋技術科学大学 「TiO2ナノチューブアレイ-CoFe2O4ナノ粒子複合体の作製と評価」

ベストディスカッション賞受賞者(敬称略)

加藤 邦彦 名古屋大学
鈴木 葵 中部大学
今 正大 岐阜大学

written by 久 翔平(日本特殊陶業株式会社)


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写真1

写真2

写真3

写真4

写真5

写真6

2016年7月13日更新