日本セラミックス協会 東海支部
第58回 東海若手セラミスト懇話会
2019年 夏期セミナー
開催報告


 6月20日(木),21日(金)の2日間,日本セラミックス協会東海支部東海若手セラミスト懇話会の2019年夏期セミナーが愛知県西尾市のグリーンホテル三ヶ根で開催されました.

 今回は68名(講師3名,学位論文紹介1名,海外報告1名,学生34名,一般29名)に参加いただき,招待講演3件,テーブルディスカッション40件(学生29件,一般8件,企業紹介3件),学位論文紹介1件,海外報告1件の発表が行われました.

 以下,進行順に内容を報告いたします.


2019年6月20日

 13:25,梅雨時にもかかわらず天気にも恵まれ,時間内に参加者も集まり,岐阜大学の吉田運営委員代表の挨拶によって会が始まりました.代表より,これまでの東海若手セラミスト懇話会の取組やその伝統について語られ,これまで以上の活発な議論と積極的な情報交換を行っていただくよう挨拶がありました.

 招待講演1として,岡山大学の寺西貴志先生より「誘電体界面の導入によるリチウムイオン電池の出力向上」と題してご講演頂きました(写真1).ここでは高いエネルギー密度と優れた出力密度を併せ持つ二次電池の開発の一環として取り組んでおられるリチウムイオン電池の高速充放電特性を劇的に向上させるための研究についてご講演いただきました.具体的には強誘電体酸化物を正極材料の界面層に施し,分極アシスト効果によって充放電のさらなる高速化を実現された事例などご紹介いただきました.近年着目されている電池に関する技術開発ということもあり,多くの学生さんから質問が殺到して,講演終了後においても個別で質問される方もいらっしゃいました.

 続く学位論文紹介では豊橋技術科学大学のTan Wai Kian氏が「The study of ZnO formation: From my perspective」というタイトルで,酸化亜鉛ナノロッドの形成メカニズムや結晶成長に関してプロセッシングからのアプローチにより形態制御されたZnO形成事例をご紹介いただきました,またTan氏のこれまでの研究経歴なども交えてご講演いただき,今後の研究や開発で大変考となる研究内容として学位論文を紹介して頂きました(写真2)

 テーブルディスカッションのアピーリングタイムが,招待講演1の後と学位論文紹介の後に行われました.夕食後に行われるテーブルディスカッションにおいて各自どのような発表をするのか,1人1分の持ち時間で1枚の資料を使って説明が行われました.限られた時間でしたが,効果的なスライドを使った分かりやすい説明が多く見られました.

 夕食を兼ねた意見交換会が,宴会場で行われました.大学,研究室,企業の垣根を越えた交流が随所に見られ,活発な意見交換が行われました,中締めの挨拶の後も,学生や一般参加者の会話が途切れることなく続き,テーブルディスカッションが始まる直前まで意見交換が続きました.

 テーブルディスカッションは,40件の発表を4グループに分け,コアタイムを設定する形で進められました(写真3).このテーブルディスカッションとは,本会では恒例となっているポスターセッションの変形版で,発表ポスターをテーブル上に並べて発表する形式です.今年も3つの企業が参加され,セラミックス関係に従事したい学生さんが興味深く質問されておりました.また,セラミックス関連の研究として東海地方の大学,研究所および企業から多種多様な研究発表がなされ,それぞれのポスターの前で熱心な討論が遅くまで続けられました.なお,招待講演の講師の先生と参加者の投票により選ばれた優秀な発表に対して,最優秀発表賞(1件),優秀発表賞(4件)が贈られました.受賞者氏名,所属と発表題目は,本報告の最後に記したとおりです.熱心な議論や交流は,場所を移して催された二次会会場で,深夜遅くまで続けられました.


2019年6月21日

 2日目は,名古屋工業大学の井田隆先生による「ICDDの活動 2019」と題した招待講演2で始まりました(写真4).ご講演では,井田先生のこれまでの研究取組からICDDの活動へつながる経緯やXRDを用いての結晶構造解析,あいち地の拠点のシンクロトロン光施設を活用した研究,企業支援など多岐にわたってご講演いただきました.昨日遅くまで活発な議論をされて疲れているところ,井田先生の趣向をこらした演出もあったため,学生さんにとっても印象深い講演となりました.

 続く招待講演3では,量子科学技術研究開発機構の出崎亮先生から「量子ビームを利用した機能性セラミックスの合成」と題してご講演頂きました(写真5).有機材料を設計し,これに量子ビークを照射することで炭化ケイ素などのセラミックファイバーを形成させることができる事例など大変わかりやすくご講演いただきました.量子ビームを活用したセラミックス材料の合成については普段聞きなれない学生さんも多く,大変興味を持っていただけたと見え,質疑応答では,時間を押してまで活発に行われました.

 最後に海外報告として,産業技術総合研究所の鷲見裕史氏より,ドイツ・(カールスルーエ工科大学)に海外赴任された際の生活や研究内容についてご報告していただきました.海外での研究や生活に加えて,日本とは違った環境での苦労話や楽しい思い出など興味深い内容をお話しいただき,海外留学に挑戦したい学生さんだけでなく企業に入って海外に赴任する一般の方へも大変参考となる講演をいただきました(写真6)

 閉会の折,テーブルディスカッション優秀発表賞とベストィスカッション賞の発表と表彰を行いました.最優秀発表受賞者の名古屋工業大学・近藤冴香さんには,副賞として岐阜大学・吉田先生から本とプレゼンテーションの練習などで活用できるグッズが贈られました.

 例年本セミナーでは,クール・ビズスタイルでの参加を呼びかけており,今回もそのリラックスした雰囲気の中で活発な討論が行われました.また,合宿形式ということもあり,学生,一般参加者を問わず多くの方たちが親睦を深める良い機会になったと思います.本年度初めて御参加いただけた研究室もいくつかあり,このような取り組みがさらに継続されることを切に望んでいます.この場をお借りして,今回のご参加の御礼を申し上げるとともに,次回以降もより多くの方々のご参加をいただけますよう,ご案内する次第です.


テーブルディスカッション 最優秀発表賞 (敬称略)

講演者: 近藤 冴香 大学: 名古屋工業大学 題目: 第一原理計算による岩塩型Li1.2Mn0.4Ti0.4O2正極の充電機構解析

テーブルディスカッション 優秀発表賞受賞者 (敬称略)

講演者: 小島 鈴果 大学: 愛知工業大学 題目: ポリグルタミン酸―リン酸カルシウム複合体上での酵素活性安定化
講演者: 浅井 健太 大学: 岐阜大学 題目: Yb-Ti系酸化物の化学組成と結晶構造の関係
講演者: 渡邊 将太 大学: 中部大学 題目: セルロース繊維-アパタイト複合体の形態制御
講演者: 須藤 隆文 大学: 名古屋工業大学 題目: メカノケミカル還元法による酸化物への表面欠陥導入とその応用

ベストディスカッション賞 (敬称略)

質問者: 今 正大 大学: 岐阜大学
質問者: 加藤 邦彦 大学: 名古屋工業大学
質問者: 鈴木 葵 大学: 中部大学

写真

招待講演1風景
招待講演1

学位論文紹介風景
学位論文紹介

テーブルディスカッション風景
テーブルディスカッション

招待講演2風景
招待講演2

招待講演3風景
招待講演3

海外報告風景
海外報告

文責:尾畑 成造 (岐阜県セラミックス研究所)


作成日時:2019年7月12日