第64回
日本セラミックス協会 東海支部

東海若手セラミスト懇話会
夏期セミナー

 6月15日(木),16日(金)の2日間,日本セラミックス協会東海支部東海若手セラミスト懇話会の2023年夏期セミナーが三重県志摩市のホテル&リゾーツ伊勢志摩で開催されました.

 今回は83名(講師3名,学位論文紹介1名,海外報告1名,学生53名,一般25名)に参加いただき,招待講演3件,テーブルディスカッション61件(学生52件,一般8件,企業紹介1件),学位論文紹介1件,海外報告1件の発表が行われました.

 以下,進行順に内容を報告いたします.


 1日目;13:25,梅雨時にもかかわらず天気にも恵まれ,時間内に参加者も集まり,産業技術総合研究所の北運営委員代表の挨拶によって会が始まりました.代表より,これまでの東海若手セラミスト懇話会の取組やその伝統について語られ,これまで以上の活発な議論と積極的な情報交換を行っていただくよう挨拶がありました.

 招待講演1として,東京工業大学の磯部敏宏先生より「A2M3O12型負熱膨張物質の合成とその特性」と題してご講演頂きました.(→図1)ここでは電子デバイスや光学機器に搭載されたサブミクロンサイズのパーツにおいて、剥離や破壊といった深刻な問題を引き起こす熱膨張を精密に制御するための研究についてご講演いただきました。具体的には、A2M3O12にこれまで着目されていなかった硫黄やリンを導入し、さらに欠陥を制御することで熱膨張率の制御に成功した事例などご紹介いただきました.また、学生さんが理解しやすいように、材料設計や熱膨張メカニズムについて、理論や結晶学に基づいて丁寧にご説明くださり、講演時間を過ぎても学生さんから多くの質問がありました.

 続く学位論文紹介では名古屋工業大学の西田吉秀先生が「マイクロ波加熱を利用した金属ナノ粒子の合成と触媒反応への応用に関する研究」というタイトルで,Rhナノ粒子や合金ナノ粒子の形成メカニズムや結晶成長に関して、溶媒種など詳細なパラメータの影響を含めてご紹介いただきました。金属ナノ材料に関する内容でしたが、セラミックスにも共通する表面反応についても分かりやすくご講演いただき,今後の研究や開発で大変考となる研究内容として学位論文を紹介して頂きました.(→図2)

 テーブルディスカッションのアピーリングタイムが,招待講演1の後と学位論文紹介の後に行われました.夕食後に行われるテーブルディスカッションにおいて各自どのような発表をするのか,1人1分の持ち時間で1枚の資料を使って説明が行われました.限られた時間でしたが,効果的なスライドを使った分かりやすい説明が多く見られました.

 夕食を兼ねた意見交換会が,宴会場で行われました.大学,研究室,企業の垣根を越えた交流が随所に見られ,活発な意見交換が行われました,中締めの挨拶の後も,学生や一般参加者の会話が途切れることなく続き,テーブルディスカッションが始まる直前まで意見交換が続きました.

 テーブルディスカッションは,61件の発表を4グループに分け,コアタイムを設定する形で進められました.(→図3)このテーブルディスカッションとは,本会では恒例となっているポスターセッションの変形版で,発表ポスターをテーブル上に並べて発表する形式です.今年は1つの企業が参加され,セラミックス関係に従事したい学生さんが興味深く質問されておりました.また,セラミックス関連の研究として東海地方の大学,研究所および企業から多種多様な研究発表がなされ,それぞれのポスターの前で熱心な討論が遅くまで続けられました.なお,招待講演の講師の先生と参加者の投票により選ばれた優秀な発表に対して,最優秀発表賞(1件),優秀発表賞(3件)が贈られました.受賞者氏名,所属と発表題目は,本報告の最後に記したとおりです.熱心な議論や交流は,二次会会場で,深夜遅くまで続けられました.

 2日目は,九州大学の稲田幹先生による「準安定結晶創製のための水熱条件設定」と題した招待講演2で始まりました.(→図4)ご講演では,はじめに水熱反応における酸化物微粒子の形成や結晶成長に関する基礎的な考え方を分かりやすくご説明いただき、OHが導入された準安定相のチタン酸バリウムやプリン型粒子などユニークな結晶構造や形態の合成プロセシングの事例をご紹介いただきました。さらに、出産や子育ての多忙な中で、どのようにキャリアを形成されたかについてもご講演いただき、学生さんにとっても印象深い講演となりました.

 続く招待講演3では,産業技術総合研究所の渡邉亮太氏から「無機-高分子複合材料の界面分析技術」と題してご講演頂きました.(→図5)セラミックスフィラー‐高分子複合材料の高機能化に向けた界面設計に向けて、界面の状態や相互作用を可視化できる事例など、渡邉氏のこれまでの研究経歴などを交えて大変わかりやすくご講演いただきました.顕微赤外分光法と独自の分析技術を活用した界面分析手法については普段聞きなれない学生さんも多く,大変興味を持っていただけたと見え,講演時間終了まで質疑応答が活発に行われました.

 最後に海外報告として,名古屋工業大学の漆原大典先生より,ドイツ(エアランゲンニュルンベルク大学)に海外赴任された際の生活や研究内容についてご報告していただきました.海外での研究や生活に加えて,日本とは違った環境での苦労話や楽しい思い出など興味深い内容をお話しいただき,海外留学に挑戦したい学生さんだけでなく企業に入って海外に赴任する一般の方へも大変参考となる講演をいただきました.(→図6)

 閉会の折,テーブルディスカッション優秀発表賞とベストィスカッション賞の発表と表彰を行いました.最優秀発表受賞者の名古屋大学・瀬古幹人さんには,副賞として産業技術総合研究所・北氏から、若手研究者のさらなる成長を願って、未就学児でも難解な物理が理解できる参考書が贈られました.

 例年本セミナーでは,クール・ビズスタイルでの参加を呼びかけており,今回もそのリラックスした雰囲気の中で活発な討論が行われました.また,合宿形式ということもあり,学生,一般参加者を問わず多くの方たちが親睦を深める良い機会になったと思います.4年ぶりの開催となりましたが、多くの方にご参加、ご発表いただきました。このような取り組みがさらに継続されることを切に望んでいます.この場をお借りして,今回のご参加の御礼を申し上げるとともに,次回以降もより多くの方々のご参加をいただけますよう,ご案内する次第です.


最優秀発表賞 (敬称略)

講演者 大学 題目
講演者: 瀬古 幹人 大学: 名古屋大学 題目: 8YSZ交流電界フラッシュ焼結における緻密停止要因とその改良

優秀発表賞 (敬称略)

講演者 大学 題目
講演者: 浅野 颯斗 大学: 産業技術総合研究所/中部大学 題目: アルコキシド系チタン原料を用いた液相法リン酸塩ガラスの作製
講演者: 藤城 克己 大学: 豊橋技術科学大学 題目: 複合粒子の最適化設計による焼結性の改善
講演者: Ni Kadek Sagit Ari Warsani 大学: 名古屋工業大学 題目: Synthesis of Near-infrared-Driven Heterojunction Photocatalyst via One Step Microwave-Assisted Reaction
講演者: 伊東 健太郎 大学: 名古屋大学 題目: Ce1-xGdxO2-δナノシートの精密合成

ベストディスカッション賞 (敬称略)

講演 質問者 大学
講演: 招待講演1 質問者: 岡本 隼汰 大学: 豊橋技術科学大学
講演: 招待講演2 質問者: 森田 秀 大学: 名古屋大学
講演: 招待講演3 質問者: 白木 翔大 大学: 中部大学

写真

招待講演1風景
招待講演1

学位論文紹介風景
学位論文紹介

テーブルディスカッション風景
テーブルディスカッション

招待講演2風景
招待講演2

招待講演3風景
招待講演3

海外報告風景
海外報告

文責:渕上輝顕 (名古屋工業大学)


作成日時:2023年8月9日