最新の活動
6月13日(木),14日(金)の2日間,日本セラミックス協会東海支部東海若手セラミスト懇話会の2024年夏期セミナーが岐阜県下呂市の下呂温泉山形屋で開催されました.
今回は87名(講師3名,学位論文紹介1名,海外報告1名,学生58名,一般24名)に参加いただき,招待講演3件,テーブルディスカッション67件(学生55件,一般8件),学位論文紹介1件,海外報告1件の発表が行われました.
以下,進行順に内容を報告いたします.
1日目梅雨時にもかかわらず天気にも恵まれ,時間内に参加者も集まり,産業技術総合研究所の北運営委員代表の挨拶によって会が始まりました.代表より,これまでの東海若手セラミスト懇話会の取組やその伝統について語られ,これまで以上の活発な議論と積極的な情報交換を行っていただくよう挨拶がありました.
招待講演Iとして、三重県工業研究所の井上幸司氏より「電子線励起型酸化物発光体の開発と応用展開」と題してご講演頂きました.(写真1)ここではディスプレー等に使用される安価かつ高性能な青色蛍光体材料開発に関する研究についてご講演頂きました.具体的には、MgをドープしたZnOに関し青色発光に向けたバンド設計とそれを実現するための材料合成手法の開発経緯,実用化に適した粒子形状を実現するためのプロセス開発について,研究開発の時系列に合わせてその時々の出来事やご苦労とともにご紹介いただきました.ディスプレーや蛍光体の一般論を丁寧にご説明頂いたことで、当該研究分野に馴染みのない学生さんにも大変わかりやすく,講演時間を過ぎても学生さんから多くの質問がありました.
続く学位論文紹介では名古屋工業大学の本多沢雄先生から「セラミックス系多孔質ガス分離膜の開発に関する研究」というタイトルで,分離膜層および多孔質支持体の作製条件と微構造,特性の相関解明や機構解明に関するご講演を頂きました.(写真2)その他にも,セラミックス分野に数多く貢献された本多先生のこれまでの研究活動,学位取得に係る手続きや流れなどもご説明頂き,学生さんにとって今後の研究や進路に大変参考になるご講演を頂きました.
テーブルディスカッションのアピーリングタイムが,招待講演1の後と学位論文紹介の後に行われました.夕食後に行われるテーブルディスカッションにおいて各自どのような発表をするのか,1人1分の持ち時間で1枚の資料を使って説明が行われました.限られた時間でしたが,効果的なスライドを使った分かりやすい説明が多く見られました.
夕食を兼ねた意見交換会が,宴会場で行われました.大学,研究室,企業の垣根を越えた交流が随所に見られ,活発な意見交換が行われました,中締めの挨拶の後も,学生や一般参加者の会話が途切れることなく続き,テーブルディスカッションが始まる直前まで意見交換が続きました.
テーブルディスカッションは,67件の発表を4グループに分け,コアタイムを設定する形で進められました.(写真3)テーブルディスカッションとは,本会では恒例となっているポスターセッションの変形版で,発表ポスターをテーブル上に並べて発表する形式です.セラミックス関連の研究として東海地方の大学,研究所から多種多様な研究発表がなされ,それぞれのポスターの前で熱心な討論が遅くまで続けられました.なお,招待講演の講師の先生と参加者の投票により選ばれた優秀な発表に対して,最優秀発表賞(1件),優秀発表賞(5件)が贈られました.受賞者氏名,所属と発表題目は,本報告の最後に記したとおりです.二次会会場に移動した後も熱心な議論や交流が深夜まで続きました.
2日目は,関西学院大学の尾崎壽紀先生による「超伝導薄膜とイオン照射効果」と題した招待講演IIで始まりました.(写真4)ご講演では,超伝導現象の基礎や超伝導材料発見の歴史を含む基本的な知識から,鉄系超伝導薄膜を中心にイオン照射による欠陥生成が超伝導臨界温度や臨界電流密度に与える影響を詳細にご説明頂きました.外部の大型装置利用および外部機関との連携において,繊細な薄膜試料を取り扱うご苦労とそこから偶発的に得られた成果など大変興味深いご講演を頂きました.専門外の超伝導やイオン照射という講演内容に対し,多くの学生からプロセスや物性に踏み込んだ質問がありました.
続く招待講演IIIでは、産業技術総合研究所の松本尚之氏から「カーボンナノチューブ技術の研究開発から実用化まで」と題して講演頂きました.(写真5)カーボンナノチューブの物性や機械特性などの基礎知識に加え,産総研で開発されたスーパーグロース法がラボレベルからスケールアップされ,実用化されるまでの流れをご説明頂きました.新規材料が実用化されビジネスとして成立するために必要な要件や,過去のセラミックスに関する研究経験がカーボンナノチューブの研究で大いに活きた経験談など,材料研究に携わる学生にとって大変有意義なお話を頂き,講演時間終了まで質疑応答が活発に行われました.
最後に海外報告として,名古屋工業大学の加藤邦彦先生より,スイス連邦材料試験研究所(Empa)への留学に関しご報告いただきました.(写真6)スイスの文化や食を中心に海外留学の魅力をお話し頂き,海外留学に挑戦したい学生さんだけでなく企業に入って海外に赴任する一般の方へも大変参考となる講演をいただきました.
閉会の折,テーブルディスカッションの優秀発表賞とベストディスカッション賞の発表と表彰を行いました.最優秀発表賞受賞者の豊橋技術科学大学・藤城克己さんには,副賞として産業技術総合研究所・北運営委員代表から、様々な物理法則を楽しみながら見直すことにより新たな発想を生み出すことを目的としたDVDブックが贈られました.
例年本セミナーでは,クール・ビズスタイルでの参加を呼びかけており,今回もそのリラックスした雰囲気の中で活発な討論が行われました.また,合宿形式ということもあり,学生,一般参加者を問わず多くの方たちが親睦を深める良い機会になったと思います.多くの方にご参加,ご発表いただき, 2013年以来の85名を超える参加者数となりました.(写真7)このような取り組みがさらに継続され,東海地方の研究活動が盛り上がることを切に望んでいます.この場をお借りして,今回のご参加の御礼を申し上げるとともに,次回以降もより多くの方々のご参加をいただけますよう,ご案内する次第です.
講演者 | 大学 | 題目 |
---|---|---|
講演者: 藤城 克己 | 大学: 豊橋技術科学大学 | 題目: 粉末マクロ制御を目的としたコアシェル複合顆粒の作製 |
講演者 | 大学 | 題目 |
---|---|---|
講演者: 土屋 亜樹 | 大学: 名古屋大学 | 題目: シングルナノサイズの粒子を用いた 透明な正方晶ジルコニア焼結体の作製 |
講演者: 島田 将成 | 大学: 豊橋技術科学大学 | 題目: 層状ペロブスカイトCsPb2Nb3O10及び その剥離ナノシートの強誘電特性 |
講演者: 竹本 直矢 | 大学: 名古屋工業大学 | 題目: 組成制御した釉による茶カテキン構造への影響 |
講演者: 浅野 颯斗 | 大学: 中部大学/産業技術総合研究所 | 題目: 液相法CaO-P2O5系ガラスの作製溶媒が 構造に与える影響評価 |
講演者: 辻 佳樹 | 大学: 中部大学/産業技術総合研究所 | 題目: 温度制御型ビーズミル処理による β-リン酸三カルシウムのアモルファス化プロセス検討 |
講演 | 質問者 | 大学 |
---|---|---|
講演: 招待講演1 | 質問者: 佐藤 駿樹 | 大学: 名古屋工業大学 |
講演: 招待講演2 | 質問者: 三宮 拓実 | 大学: 名古屋工業大学 |
講演: 招待講演3 | 質問者: 池戸 一将 | 大学: 名古屋工業大学 |
文責:鶴田 彰宏 (産業技術総合研究所)
作成日時:2024年9月2日