[東海若手セラミスト懇話会]
[日本セラミックス協会東海支部]
去る6月24日(木),6月25日(金)の2日間,日本セラミックス協会東海支部東海若手セラミスト懇話会の2014年夏期セミナーが三重県菰野町の希望荘で開催されました.今回は73名(講師:5名,一般:26名,学生:42名)の参加者を集め,招待講演3件,テーブルディスカッション39件(企業紹介1件,一般4件,学生34件),学位論文紹介1件,海外報告1件の発表が行われました.以下,進行順に内容を報告いたします.
1日目: 定刻通り名古屋工業大学の本田運営委員代表から,活発な議論と積極的な情報交換を行っていただくよう挨拶があり、会が始まりました.
引き続き招待講演1として,新潟大学の戸田健司先生より「蛍光体の化学と物理」と題してお話をいただきました.蛍光体だけでなく光の三原色や色の三原色を初めとする初歩的なわかりやすいお話,様々な生き物の色認識細胞(視覚)についてのお話といった雑学的な面白いお話もまじえ、先生ご自身の研究開発してきた蛍光材料だけでなく世界中で行われている先進的な研究の紹介などもしていただきました.非常に中身の濃いご講演であったため,60分に収まりきらず長時間の講演となりましたが、先生の面白いお話を聞き入っていたため、学生さんも疲れることなく最後まで興味を持ち講演を拝聴していました.学生さんからも多くの質問がありましたが,講演時間が延長してしまったため,数件の質問についてのみ質疑応答が行われ,その他の学生さんたちはその後の夕食会やテーブルディスカッション中に改めて戸田先生に質問されていました.(→写真1)
その後、テーブルディスカッションのアピーリングタイム第1部が,引き続き行われました.(→写真2)夜に行われるテーブルディスカッションのアピールを一人30秒の持ち時間で1枚のスライドを使って行ってもらいました.限られた時間の中で工夫を凝らした懸命なアピールが多く見られました.
招待講演2では,サレジオ工業高等専門学校の黒木雄一郎先生から「水を含んだ結晶構造を有する蛍光体」というタイトルでお話をいただきました.招待講演1で戸田先生から蛍光体に関する初歩的はお話をしていただいたため、黒木先生はその部分を省略し、ご自身の行ってきた水熱法を用いが蛍光体合成についてのお話を詳細にして頂きました.水熱法の原理や特徴の紹介と化合物中の構造水の働きや出発原料の粒子形成に与える影響など非常に参考になる講演を行っていただきました.(→写真3)
テーブルディスカッションのアピーリングタイム第2部が,招待講演2の後に第1部と同様に行われました.
夕食を兼ねた意見交換会は,宴会場で行われました.至る所で会話に花が咲き交流の輪ができていました.非常に盛り上がり中締めの挨拶があった後も,多くの人が宴会場に残りテーブルディスカッションが始まる直前まで意見交換・交流が続いていました.
テーブルディスカッションは39件の発表を4グループに分け,コアタイムを設定する形で進められました.このテーブルディスカッションとは,本会では恒例となっているポスターセッションの変形版で,発表資料をテーブル上に並べて発表する形式です.ポスターを持参する人や実際のサンプルを持ち込んで実演する人もいて、創意工夫が見られました.アルコールを飲みながらの議論であったことも手伝って会場はものすごい熱気で,至る所で質問が飛び交っていました.熱心な討論がコアタイムを超えても続けられ、22時30分過ぎに終了しました.なお,参加者全員の投票により選ばれた優秀な発表に対して,最優秀発表賞(1件),優秀発表賞(4件)が贈られました.受賞者氏名,所属と発表題目は,本報告の最後に記した通りです.熱心な議論や交流は場所を移して催された二次会の会場でも朝3時過ぎまで続けられ、それでも議論し足りない人は、その後も会場の外で日が昇るまで議論を続けました.
2日目: 招待講演3として,住友電気工業株式会社の小野木伯薫先生による「水熱低温接合による金属基板へのセラミックス積層」と題したご講演を行っていただきました.異種間材料の接合や複合化により単体では得られないような機能を発現する新材料にの研究開発には大きな夢があるが、単純にそれぞれの粒子を混合したり接合させるだけでは新材料を見つけることは難しく、いかに接合界面を精緻に設計,形成させるかが重要であるとのお話をして頂きました.その手法の一つとして水熱ホットプレス法について原理や装置などについてわかりやすい説明をいただき,いくつかの具体的な新材料の機能について興味深いお話をいただきました.二日目の朝ということでしたが、学生を含め聴講者の興味を引くご講演をして頂けたため、真剣に話に聞き入る学生の様子が見られ、活発な質疑応答につながりました.
今回も招待講演に対する学生の質問の中から各講演につき1件ずつ,ベスト質問賞が贈られました.これは,学生が積極的に講演に対して質問をすることを促すために考えられた賞で,ご講演いただいた先生に選考していただいております.今年で10年目となりますが,非常に多くの学生が積極的に質問に立つようになり,明らかに議論の活性化につながっていると思われます.今回の受賞者の氏名と所属は,本報告の最後に記した通りです.
学位論文紹介では産業技術総合研究所の三村憲一先生が「機能性チタン酸バリウム粒子/ポリマーハイブリッドの合成と評価」というタイトルで,ゾル−ゲル法を用いたチタン酸バリウムナノ粒子の合成を行い,様々な官能基を有するポリマーと有機無機複合体を作成されました.古くから,柔軟性や伸縮性といったセラミックス単独では困難な性質を付与するためにポリマー中にセラミックス粒子を混合するということは行われてきていますが,近年ではその複合化をナノレベルで行うことにより,有機−無機の相互作用によるセラミックス粒子,ポリマー単独で得られる性質を超える性質を有する新規材料の研究開発が盛んに行われております.得られたハイブリッド材料の光学特性,誘電特性などについての評価について詳細なご紹介を頂きました。将来の学位取得に向けて刺激を受けた学生さんも多かったのではないでしょうか.
次に海外報告として,豊橋技術科学大学の河村剛先生より,アメリカに滞在された際の研究活動,生活について報告していただきました.アメリカに住んで研究したことにより直接肌で感じることができたアメリカの研究スタイルや日本とアメリカの研究環境の違い,留学を決意した際に事前に準備すべきことなどをお話し頂きました.今後,海外へ留学などを希望する学生さんにとっては参考となる有意義なお話になったことと思います.
最後に,テーブルディスカッション優秀発表賞とベスト質問賞の発表と表彰を行いました.最優秀発表賞を受賞した名古屋工業大学の船橋秀斗君には,本多代表が自作された贈呈品が贈られました.(→写真4)最後に秋期講演会での再会を約束し,閉会しました.
例年本セミナーでは,カジュアルなスタイルでの参加を呼びかけており,今回もそのリラックスした雰囲気の中で活発な討論が行われました.また,合宿形式ということもあり,夜遅くまで研究のことだけでなく様々なことを語り合い,東海地区の若手が親睦を深める良い機会となりました.この場をお借りして,次回にもより多くの方々のご参加をいただけますよう,ご案内する次第です.
最優秀発表賞 | ||
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船橋 秀斗 | 名古屋工業大学 | 「スピナー走査法による焼結体の結晶子径評価」 |
優秀発表賞 | ||
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黒田 太一 | 豊橋技術科学大学 | 「高熱伝導性高分子複合材料開発のための微構造制御」 |
佐藤 絵美子 | 名古屋工業大学 | 「粗大粒子を混合した水中シリカナノ粒子の超音波分散手法」 |
坪井 泉名 | 名古屋工業大学 | 「エピタキシャルCr2O薄膜における応力誘起電気磁気特性」 |
長谷川 明里 | 岐阜大学 | 「ナノ粒子懸濁液の鋳込み成形により作製した立方晶ジルコニアの焼結挙動」 |
中西 冬馬 | 三重大学 |
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清水 大輔 | 岐阜大学 |
中村 悠一郎 | 名古屋工業大学 |
written by 平野 敦(三重大学)
写真1 招待講演1 |
写真2 アピーリングタイム |
写真3 招待講演2 |
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写真4 最優秀発表賞表彰 |
2014年10月27日更新