[東海若手セラミスト懇話会]
[日本セラミックス協会東海支部]
去る6月23日(木),24日(金)の2日間,日本セラミックス協会東海支部東海若手セラミスト懇話会の2016年夏期セミナーが岐阜県岐阜市の十八楼で開催されました.今回は83名(講師4名,学生53名,一般26名)の参加者を集め,招待講演4件,テーブルディスカッション48件(学生43件,一般2件,企業紹介3件),学位論文紹介1件,海外報告1件の発表が行われました.以下,進行順に内容を報告いたします.
1日目;13:25,定刻通り岐阜県セラミックス研究所の尾畑運営委員代表の挨拶により会が始まり,歴代の委員により受け継がれてきた東海若手セラミスト懇話会の伝統について語られ,活発な議論と積極的な情報交換を行っていただくよう挨拶がありました.
招待講演1として,東京工業大学の安井伸太郎先生より「薄膜における材料探索 ~圧電体を例に~」と題してご講演頂きました.(→写真1)圧電体材料を例に,トレードオフが生じる圧電定数とキュリー温度の関係から始まり,薄膜化することでトレードオフの関係から脱却可能であることをお話しいただきました.また,高圧合成等を使用しないと作製が難しい材料は,薄膜合成ならば比較的容易に作製が可能であり,材料探索の新しいツールとなります.将来的に,新材料が薄膜合成から発見される可能性が大いにあることをお話しいただきました.セラミックスを扱う学生さんにおいて,材料探索のツールとなる貴重な講演であり,多くの学生さんから質問が殺到しておりました.
続く招待講演2では,熊本大学の伊原博隆先生から「自己組織化による機能材料の開発 〜有機からハイブリッドへ〜」と題してご講演頂きました.(→写真2)伊原先生の「面倒なことはしたくない」から,先生がどのように実験を進められてきたかをお話しいただきました.もちろん,面倒なこと=実験,ではなく,面倒なことはしたくない=いかに効率的に行うか,といった内容であり,これから活躍する学生さんにとって貴重なお話しだったと感じます.また,講演の内容は,分子ゲル形成物質のひとつであるグルタミドの構造制御およびピレン,アントラセンの導入により光学材料になることをお話しされました.内容の大部分が有機材料についての講演でしたが,多くの学生さんに興味を持っていただけたと見え,活気ある質疑応答がされておりました.
学位論文紹介では株式会社ノリタケカンパニーリミテドの犬飼浩之氏が「固体酸化物型燃料電池電極用混合導電性ペロブスカイト型酸化物の研究」というタイトルで,固体酸化物型燃料電池の問題点や,電極用ペーストの制御およびレオロジー特性評価など,研究や開発で役立つ内容を含む学位論文を紹介していただきました.(→写真3)
夕食を兼ねた意見交換会が,宴会場で行われました.(→写真4)大学,研究室,企業の垣根を越えた交流が随所に見られ,活発な意見交換が行われました,中締めの挨拶の後も,学生や教員の会話が途切れることなく続き,テーブルディスカッションが始まる直前まで意見交換が続いていました.
テーブルディスカッションは,48件の発表を3グループに分け,コアタイムを設定する形で進められました.(→写真5)このテーブルディスカッションとは,本会では恒例となっているポスターセッションの変形版で,発表ポスターをテーブル上に並べて発表する形式です.今年は3つの企業が参加され,セラミックス関係に従事したい学生さんが興味深く質問されておりました.また,セラミックスをキーワードに東海地方の大学,研究所および企業から多種多様な研究発表がなされ,それぞれのポスターの前で熱心な討論が遅くまで続けられました.なお,招待講演の講師の先生と参加者の投票により選ばれた優秀な発表に対して,最優秀発表賞(1件),優秀発表賞(4件)が贈られました.受賞者氏名,所属と発表題目は,本報告の最後に記したとおりです.熱心な議論や交流は,場所を移して催された二次会の会場で,深夜遅くまで続けられました.
2日目は,名古屋工業大学の福田功一郎先生による「新規配向技術を用いた一次元イオン伝導性多結晶体の高性能化」と題した招待講演3で始まりました.(→写真6)ご講演では,アパタイト型ケイ酸ランタン多結晶体を例に,反応場を制御することによる配向技術や,結晶構造,化学組成が操作可能であるという,興味深い内容をお話しいただきました.セラミックスの大部分は結晶構造により物性が決まることから,配向技術は多くの学生が興味を抱いたと思われます.昨日は遅くまで活発な議論をされていた学生さんですが,たくさんの質問があり,朝から活発なセッションとなりました.
続く招待講演4では,北海道大学のNguyen Thanh Mai先生から「Shape control and formation of tin oxide particles in organic medium」と題してご講演頂きました.(→写真7)多用途で使用される酸化スズは,粒子の構造が特性に影響を与えるため,構造を制御することが重要となります.有機媒体を用い,錯体から酸化スズの構造制御を行う方法についてお話しいただきました.特に,板状や立方体のみならず,ヒトデ型といった多種多様な形態の制御が可能であることをご講演頂きました.講演は英語で行われましたが,多くの学生さんに興味を持っていただけたと見え,活気ある質疑応答がされておりました.
最後に海外報告として,名古屋工業大学の籠宮功先生より,オーストラリア/シドニーのANSTOおよびフランス/リモージュのSPCTSに名工大プロジェクトの一環として海外赴任された際の生活についてご報告していただきました.海外での研究や生活など,日本では味わえない興味深い内容をお話しいただき,海外留学に挑戦したい学生さんの意欲をより奮い立たせたのではないのでしょうか.
最後にテーブルディスカッション優秀発表賞とベスト質問賞の発表と表彰を行いました.最優秀発表受賞者の岐阜大学・水野すみれさんには,副賞として尾畑代表から晩餐会などで使用される,由緒正しきコーヒーカップが贈られました.(→写真8)
例年本セミナーでは,クール・ビズスタイルでの参加を呼びかけており,今回もそのリラックスした雰囲気の中で活発な討論が行われました,また,合宿形式ということもあり,学生,教員を問わず多くの方たちが親睦を深める良い機会になったと思われます.この場をお借りして,次回にもより多くの方々のご参加をいただけますよう,ご案内する次第です.
最優秀発表賞 | ||
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水野 すみれ | 岐阜大学 | アルミニウムドープZnOの水熱合成における添加剤の影響 |
優秀発表賞 | ||
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尾野 翔器 | 名古屋工業大学 | 「結晶子サイズと試料回転が二次元粉末回折図形に及ぼす影響」 |
八反 大貴 | 名古屋工業大学 | 「アイドリングストップ車用パラフィン系蓄冷剤の構造研究」 |
加藤 邦彦 | 名古屋工業大学 | 「マイクロ波照射による熱的非平衡反応場形成とチタン酸化物合成」 |
加藤 雄太 | 岐阜大学 | 「異なる乾燥方法で得たアルミナ前駆体粉末のコランダムへの相転移挙動」 |
若松 徹 | 名古屋大学 |
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野田 啓尊 | 名古屋工業大学 |
永井 隆之 | 名古屋大学 |
加藤 邦彦 | 名古屋工業大学 |
written by 三谷 明洋(FDK株式会社)
写真1 招待講演1 |
写真2 招待講演2 |
写真3 学位論文紹介 |
写真4 夕食の様子 |
写真5 テーブルディスカッション |
写真6 招待講演3 |
写真7 招待講演4 |
写真8 最優秀発表賞表彰 |
2016年7月13日更新