光学系の調整(2)
HV/PHA の調整

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HV/PHA 調整(No. 1〜6)

使用するX線の波長を変更したときには,パルス高分析器 (PHA) の特性に合わせて, X線検出器にかける高電圧 High Voltage (HV) が最適な値になるように再調整する必要があります。

ここでは "MDS controller" を使用して HV を調整し, PHA 微分曲線を測定する手順について説明します。

慣れれば手動の方が早く調整できると思われますが, 再現性を確保するために自動調整を推奨します。

HV/PHA unit  
<HV/PHA ユニット>  

HV (No. 1〜6) 調整

(1) 調整する HV/PHA ユニットと接続された検出器にX線を導入します。

  1. 入射スリットボックスに適切なスリット(幅 2.5 mm, 高さ 0.25 mm)とアッテネータが挿入されていることを確認してください。 (参照:入射スリットとアッテネータの設置
    HV 調整の際には一時的に PHA の Window 幅を 10% と狭くする(通常は 100% 程度に設定)するので,高さ制限スリットは光学系調整時より広めにします。
  2. 検出器とアナライザ結晶の角度,迷光よけエッジがアナライザ結晶を退避する配置になっていることを確認します。 (参照:アナライザの退避
  3. 「Positioning」コントロールパネルを開きます。
  4. Two Theta の Correction ポップアップを [OFF] の状態にし, 調整を行う検出器について以下の角度を入力します。
    <アナライザ退避時の2Θ値>
    検出器番号No. 6No. 5No. 4No. 3No. 2No. 1
    2Θ(°)1.726.751.776.7101.7126.7
  5. Two Theta がチェックされた状態で [Positioning] ボタンをクリックして所定角度に移動します。

(2) HV スキャンに適した PHA BL/WIN(許容パルス高下限/範囲)パラメータを設定します。

  1. 「Positioning」コントロールパネルを開きます。
  2. HV/PHA の BL (%) に 95, WIN (%) に 10 を入力し,[Positioning] ボタンをクリックします。

(3) HV スキャンを実行します。

  1. 「Comment Editor」コントロールパネルを開きます。
    「Target for Edition」で未使用の最も若いバッチ番号を選択します。
    所要事項を記入し,[Save Comment] ボタンをクリックします。
    以後のスキャン測定の際に,スリットや減衰板,試料やアナライザの条件を変更したときには, このコントロールパネルからコメントを書き換えるようにします。
Comment Editor Control Panel
 
<Comment Editor コントロールパネル>
 
  1. 「Positioning」コントロールパネルを開きます。
    位置を変更した軸と HV/PHA をチェックし, [Save as Pre-Scan Move] ボタンをクリックします。
    "Pre-Scan Move" の指定は,バッチ測定に先立って軸の位置を変更する機能を提供するものですが, ここではスキャン測定の条件を保存するために使用します。 以後のスキャン測定についても,軸の位置や HV/PHA パラメータを変更したときには, この操作によって位置情報を保存することを推奨します。
Positioning Control Panel
 
<Positioning コントロールパネル>
 
  1. 「Scan Control」パネルを開きます。
Scan Control Panel
 
<Scan Control パネル>
 
  1. Scan Axis ポップアップメニューから HV(1〜6) を選択し,Start, Stop, Step の値を入力します。
    [coarse] ボタンまたは [fine] ボタンをクリックすれば, 現在位置を基準として適切なスキャン範囲と測定ステップが自動的に入力されます。
  2. 「Data Save & Plot」セクションで保存/表示するべきデータがチェックされていることを確認します。
  3. 計数時間 Unit FT (s) が 0.5,繰り返し回数 Repeat が 1 となっていることを確認します。
  4. タイマカウンタの計数時間(preset time)が 0.5 s になっていることを確認します。 (参照:計数時間の設定
  5. [Safe Scan] ボタンをクリックして HV スキャン測定を開始します。
    [Safe Scan] ボタンをクリックして開始する「Safe Scan」モードでは,測定中に [Stop] ボタンで測定を中断することができます。
    [Batch Scan ...] ボタンをクリックして起動する Batch Scan モードは, 長時間測定のときに使います。 このモードで測定を中断するためには Igor の Window の左下隅に表示される [Abort] ボタンをクリックします。
    [Rapid Scan] ボタンをクリックして起動する Rapid Scan モードは, ピーク位置を検出したときに自動的にスキャン測定を終了させる動作を意図していますが, 通常は使用しません。

(4) HV のデフォルト値を登録します。

  1. 測定された HV スキャン曲線のグラフからピーク位置を決定します。
  2. 「Initialize」コントロールパネルを開きます。
  3. HV スキャンの結果得られたピークの位置をデフォルト値として入力し, チェックボックスがチェックされた状態で [Initialize] ボタンをクリックします。

PHA 微分曲線の測定 (No. 1〜6)

PHA 微分曲線を測定することにより HV が適切な値に設定されているかを確認します。

(1) PHA 微分曲線の測定に適した HV, PHA WIN パラメータを設定します。

  1. 「Comment Editor」コントロールパネルを開きます。
    「Target for Edition」に未使用の最も若いバッチ番号を指定します。
    コメントの内容を確認します。
  2. 「Positioning」コントロールパネルを開きます。
    HV の値が適切な値になっていることを確認します。
    PHA の BL(%) に 95,WIN (%) に 10 を入力し, チェックをつけた状態で [Positioning] ボタンをクリックします。
    対象となる HV/PHA にチェックを付けて [Save as Pre-Scan Move] ボタンをクリックします。

(2) PHA スキャンを実行します。

  1. 「Scan Control」コントロールパネルを開きます。
  2. Scan Axis ポップアップメニューから PHA(1〜6) を選択し,Start, Stop, Step の値を入力します。
    [coarse] ボタンまたは [fine] ボタンをクリックすれば, 現在位置を基準として適切なスキャン範囲と測定ステップが自動的に入力されます。
  3. 「Data Save & Plot」セクションで保存/表示するべきデータがチェックされていることを確認します。
  4. 計数時間 Unit FT (s) が 0.5,繰り返し回数 Repeat が 1 となっていることを確認します。
  5. タイマカウンタの計数時間(preset time)が 0.5 s になっていることを確認します。 (参照:計数時間の設定
  6. [Safe Scan] ボタンをクリックして PHA スキャン測定を行います。

(3) PHA 微分曲線を確認し,デフォルト値に設定します。

  1. PHA BL 値 95 % の近くで最もパルスが多く検出され, 強度曲線が囲む面積の大部分が PHA 値 50 % から 140 % の範囲に含まれていることを確認します。
  2. 「Initialize」コントロールパネルを開きます。
  3. PHA BL (%): 50, WIN (%): 100 となっていることを確認し, チェックを付けた状態で [Initialize] ボタンをクリックして PHA パラメータを再設定します。

パルス高分析器 Pulse Height Analyzer は, 信号パルスの高さによって雑音や, 回折光の場合には高次光を取り除くために用いられ, シングルチャンネルアナライザ (SCA) とも呼ばれます。

ただし,KEK-PF BL-4B2 ビームラインでは Si 111 結晶モノクロメータにより単色化されたX線を用いるので, 2次光の混入は無視することができます (ダイヤモンド構造で 222 反射はダイヤモンド映進面による消滅則 h+k+l=4n+2 にあてはまり禁制となります)。 さらに 4B2 ビームラインでは,水平方向の集光にロジウムがコートされ 0.6 Å付近に臨界角を持つ全反射ミラーが用いられているために, 3次光以上の高次の光の影響も実際にはほとんど気になりません。 PHA の許容窓幅 WIN を狭く取ると数え落としが多くなりますので, それが気になる場合には窓の幅を広げることを検討した方が良いかもしれません。

ただし,PHA のパラメータを変えると検出器系の数え落とし特性が変わるので, PHA のパラメータを変える場合には,数え落とし特性の評価実験をやりなおす必要があります。

X線検出器に用いられるシンチレーションカウンタはシンチレータ (Tl をドープした NaI 結晶に Be 箔を貼付けたもの)が発するシンチレーション光を 光電増倍管(フォトマル photo-multiplier)で電気パルスに変換するものです。 光電増倍管には 500〜1000 V くらいの高電圧 High Voltage をかけて使用します。 電気パルスの高さによって信号を雑音と区別するパルス高分析が用いられますが, 使用するX線の波長によって信号パルスの高さが変わります。 (波長が短くエネルギーの高い光子の方がパルスが高くなります) 波長が短いX線を使用する場合には, 光電増倍管にかける電圧を少し低くしてパルスの高さを揃えるようにします。

ただし,パルス高分析の許容窓範囲を広く取った場合には, 実際には差があまり気にならないかもしれません。


モニタカウンタ用 HV/PHA ユニットの調整

通常モニタカウンタの PHA は積分モードで使用するために, 波長を変えた場合であっても必ずしも HV 調整をしなおす必要はないかもしれません。 もし調整をする場合には以下の手順に従います。


HV 調整(モニタカウンタ)

(1) モニタカウンタの HV 調整をする際には,PHA の動作モードを一時的に微分モードに変更します。 このためには,モニタ用 HV/PHA ユニットの出力ケーブルを INT.OUT から DIFF.OUT につなぎ変えます。

(2) モニタカウンタの調整に必要な強度を得るために入射スリットとアッテネータ,モニタカウンタ用アパーチャをすべて取り外します。

(3) No. 1〜6 検出器をダイレクトビームから避けるために,以下の操作を行います。

  1. 「Positioning」コントロールパネルを開きます。
  2. [Escape Pos.] ボタンをクリックして,Two Theta の Correction を [OFF] の状態にし, 角度(°)の値に 150 を入力します。
  3. Two Theta がチェックされた状態で [Positioning] ボタンをクリックします。
  4. 実際にすべての検出器がダイレクトビームを避ける位置にあることを確認します。

(4) HV スキャンに適した PHA パラメータを設定します。

  1. 「Positioning」コントロールパネルを開きます。
  2. PHA(7) の BL (%) に 95, WIN (%) に 10 を入力し, チェックをつけた状態で [Positioning] ボタンをクリックします。

(5) HV スキャンを実行します。

  1. 「Comment Editor」「Positioning」コントロールパネルから必要な情報を保存します。
  2. 「Scan Control」コントロールパネルを開きます。
  3. Scan Axis ポップアップメニューから HV(7) を選択し,Start, Stop, Step の値を入力します。
    [coarse] ボタンまたは [fine] ボタンをクリックすれば, 現在位置を基準として適切なスキャン範囲と測定ステップが自動的に入力されます。
  4. 「Data Save & Plot」セクションで保存/表示するべきデータがチェックされていることを確認します。
  5. 計数時間 Unit FT (s) が 0.5,繰り返し回数 Repeat が 1 となっていることを確認します。
  6. タイマカウンタの計数時間(preset time)が 0.5 s になっていることを確認します。 (参照:計数時間の設定
  7. No. 1〜6 の検出器がいずれもダイレクトビームからはずれた位置にあることを確認してください。
  8. [Safe Scan] ボタンをクリックして HV スキャン測定を行います。

(6) モニタカウンタ用高電圧 HV(7) のデフォルト値を登録します。

  1. 「Initialize」コントロールパネルを開きます。
  2. HV スキャンの結果得られたピークの位置をデフォルト値として入力し, HV(7) をチェックした状態で [Initialize] ボタンを押します。

PHA 微分曲線の測定(モニタカウンタ)

(1) PHA 微分曲線の測定に適した PHA パラメータを設定します。

  1. 「Positioning」コントロールパネルを開きます。
  2. HV(7) の値が適切な値になっていることを確認します。
  3. PHA(7) の BL(%) に 95,WIN (%) に 10 を入力し, チェックをつけた状態で [Positioning] ボタンをクリックします。

(2) PHA スキャンを行います。

  1. 「Scan Control」コントロールパネルを開きます。
  2. Scan Axis ポップアップメニューから PHA(7) を選択し,Start, Stop, Step の値を入力します。
    [coarse] ボタンまたは [fine] ボタンをクリックすれば, 現在位置を基準として適切なスキャン範囲と測定ステップが自動的に入力されます。
  3. 「Data Save & Plot」セクションで保存/表示するべきデータがチェックされていることを確認します。
  4. 「Scan Control」パネル上で計数時間 Unit FT (s) が 0.5,繰り返し回数 Repeat が 1 となっていることを確認します。
  5. タイマカウンタの計数時間(preset time)が 0.5 s になっていることを確認します。 (参照:計数時間の設定
  6. [Safe Scan] ボタンをクリックして PHA スキャン測定を行います。

(3) PHA(7) 微分曲線の確認

  1. PHA BL 値 95 % の近くで最もパルスが多く検出され, 強度曲線が囲む面積の大部分が PHA 値 50 % から 140 % の範囲に含まれていることを確認します。
  2. 「Initialize」コントロールパネルを開きます。
  3. PHA BL (%): 50, WIN (%): 100 と入力し, チェックを付けた状態で [Initialize] ボタンをクリックして PHA パラメータを設定します。
    モニタカウンタは積分モードで使用するために WIN の設定値は任意です。

(4) ケーブルの接続とスリット,アッテネータを復元します。

  1. モニタ用 HV/PHA ユニットの DIFF.OUT につないでいたケーブルをはずして,INT.OUT につなぎ変えます。
  2. 適切な入射スリットとアッテネータを設置しなおします。

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2009年3月9日更新